やっと会えたね。

夕方、ビッケを連れて河原の方へ遊びにいった。
黒いトートにこそこそ入り込むビッケ。
洗濯ネットに入れられていないので散歩だとわかったらしく入って顔だけ出して辺りを窺う。
家のそばでチビママにあったので挨拶。ビッケもおそるおそる挨拶。
鼻でキスする2匹が微笑ましい。


ビッケには2人のママがいる。
野良時代のチビすけビッケにご飯をくれていたママがいる。
ビッケがうちに来ると決まった時、二人のママはとても喜んでくれた。
『やっと笑ってくれたわね』と肩を叩いてくれた。
『この子と一緒にシロチちゃんのこと待ってあげてね』と言ってくれた。
いつか大きくなったビッケを2人のママに見てもらいたいとずっと思っていた。


一人のママの家の前でリンボとキャルを見つけたので挨拶。ビッケちょっとびびる。
少し歩いてもう一人のママの家の前を通った時、突然扉が開いてママが出てきた。


「あら、久しぶりね!!大きくなっていい男になっちゃって!!ビッケ!!」
ママが手を差伸べるとビッケはトートの中に隠れようとした。
「あら、怖がりになったねぇ。小さい時はあんなに人懐こかったのにね」
ずっとうちにいたから内弁慶になっちゃったんですよ、とトートからビッケを引っ張り出す。
大きく目を見開いてママの顔を見つめるビッケ。
あんなに可愛がってもらっていたのに忘れちゃったのかい?
ママに抱かれてもやっぱり『コノヒトダレ?』といった顔のまんまのビッケ。


「ここらへんもまたチビが増えてね」とママが駐車場の方を案内してくれた。
さっとママの足許にキャルによく似た銀色に黒い縞のスタイルのいいメス猫が現れた。
怖がっているようだったので遠巻きに見ていたのだが
ママと話をしていたら彼女がするっと私の足許に寄って来た。
おそるおそる顔を出したビッケと鼻でキスをする銀色の女の子。
だが彼女はシャーッ!と小さく威嚇してきた。あわててトートに顔を埋めるビッケ。
ビッケの『ビ』の字はビビリの『ビ』。決定。
それから彼女は何度もビッケのそばに寄ってきてはシャーッ!を繰り返していた。
嫌いではないのかな。


ママに挨拶をして別れ、河原のベンチに座る。
秋になると一面コスモス畑になるのだが気の早いコスモスが一輪だけ咲いていた。
一服しながら途中で買ったジュースを飲む。
ビッケは辺りのにおいをかいだりトンボを追いかけたりしていた。
そろそろ散歩のワンちゃんが多くなるかな、と思いビッケを呼ぶ。
ビビリながらもまだ帰りたくなさそうだった。


『ビッケ!!』


河原の道の方から誰かが呼んだ。
嫌がるビッケを急いでトートにしまい、道まで行ってみるともう一人のママがいた。
『ごめんね、ビッケの名前の方が先に浮かんじゃった』
おどけて笑うママは仕事の帰りだったらしい。
ビッケはやはり『コノヒトダレ』の顔。お前って奴は。
それにしても素敵な偶然ってあるものなんだなぁと思った。


だんなに今日2人のママに偶然会えたことを話すとだんなも喜んでくれた。
あとねこいつ女の子に威嚇されたんだよ、と言うと
『「け。玉無しかよ」てバカにされたんでない?』とのこと。
なんて奴だ。