ヨコヅナ

仕事の帰り、いつも通る祠におまいりをしていたら
ちょっと前に仲良くなったサビ猫の女の子にあいさつされた。
この子は気性が優しいらしくおなかをなでなでしてもまったく怒ったりしない。
今まで出会ったサビ猫は殆ど女の子だったのだがみんな穏やかな子達だった。
(サビ≒三毛のような感じだからサビも99.999%は女の子なのかもしれない)
ただいまちょっぴりサビ猫ちゃんブームである。


自宅に着き、自転車を止めていたらどこからともなく鈴の音が聞こえた。
ビッケの首輪に付いているのよりもちょっと低いコロコロとした音が近づいてくる。
音のする方向を見ていたら暗闇から黒い塊がこっちに向かってくる。


お前は・・・


青光りする肢体に琥珀色の小さめの目。
秋田犬のように中央に目鼻が寄ったコンパクトな顔。


お前は


会えなくなるちょっと前。
お前は小さな鈴のついた青い首飾りをつけていたっけ。
ああ、お前もおうちができたんだね、おめでとう。幸せになるんだぞ
もう会えなくなるかもしれないけどお前のことずっと大好きだよ、忘れないよ
そんなことを考えながらコロコロと音をさせて去っていくお前の後姿を見送った。


近づいてくる黒い物体の両前足を持ち、あげてみる。
おなかにはくっきりと白抜きの十文字。
黒い物体はにゃ〜と細い声で鳴いた。


クロロ。
ビッケと初めて仲良くなった男の子。
小さい体にダブルコートもこもこのかわいい男の子だった。
顔を近づけてみても前のようにゴミのにおいなんかしない。
よう、クロロよう。こざっぱりしたいい男になっちまいやがって。
ちゃんと抱っこさせやがれこの野郎。


しかし


お前、でかくなりすぎです。


クロロはおそろしいほどに巨大化していた。
もりもり食べているのだろう幸せいっぱいポンポコおなか。
その上にあのもこもこダブルコート。
元々胴の長いステイヤー体型だったのだが胴体の巨大化によりさらに短足に見える。
おすわりをしていると黒い雪だるまのようだ。


憶えていてくれたんだ、と思ったら嬉しくて嬉しくて
久しぶりの対面でこれでもかと言うくらいに撫で回す。
クロロもお返しだとばかりにごつんごつんとボディアタックを繰り返す。


ドアの向こうでお出迎えの支度をしていてくれたビッケが
外で何か起きているのを察知して不安そうに鳴いている。
ビッケにも是非会わせてやらなくちゃな。


ドアを細く開ける。
『よう。兄ちゃん元気?ぼく元気!』といった感じで相変わらず物怖じしないクロロ。
クロロがもぐり込もうとするので顔を出そうとしたビッケが固まる。


そりゃそうだよね。
あのときのちびっこがヨコヅナになって現れたんだもの。
半年くらいでこのサイズ、あと半年もしたらミニラくらいにはなっているかもしれない。


遊ばせようとしたら誰かの靴音が聞こえたのでクロロは帰ってしまった。
また会えたら今度こそはビッケと遊んでやっておくれね。


相撲はもうきついかもしれない。主にビッケが。