幸せにな

妹が入籍した。
新居はまだ決まっていないのでしばらくの間は妻問婚になるらしい。
ずいぶん半端な日に入籍したなと思って聞いてみると付き合って何年だかの記念日なのだそうだ。



私も弟も親父殿も妹にはずいぶん世話をかけてきた。
実家に遊びに行くといつも妹が迎えてくれた。
だから『ねいちゃん、あたし結婚するよ』と言われた時は正直ちょっとだけ淋しかった。



妹のだんなさんにはまだ会ったことがない。
以前、もったいぶって写真を見せてくれたことがあった。
大らかそうな、笑顔の素敵な青年だった。
一緒に写っている妹もこれまたなかなかお目にかかれないいい笑顔をしていた。
とにかく一緒にいるのが嬉しくて嬉しくて仕方がないような様子だった。



『大事に育てた娘を何であんな野郎に持っていかれなくちゃいけないんだって本当に悔しかったんだ、俺はっ』
親父殿は酔っ払うと今でも私が結婚したときのことを冗談っぽく話す。
きっとどんな大会社の社長が相手でも、天皇陛下が相手でも「あんな野郎」なんだろう。
今ではすっかり『息子』としてだんなを可愛がっている(つもりらしい)親父殿。
そんな冗談が言えるようになるまで親父殿もきっと悩んだんだろう。



妹がその彼を家に連れてきたとき親父殿は彼の顔を殆ど顔も見ず、話もしなかったそうだ。
でもきっと大丈夫。
いつかきっと『俺の大事な娘を〜って思ったんだ、俺はっ』って言い出す日がくる。
その言葉が出れば大丈夫だから。



今頃親父殿は何を考えて飲んでいるんだろう。
妹が作ったおかずをつまみながら何を考えているんだろう。
猫を膝に乗せ、中空を見ている親父殿の姿を想像したらちょっとだけ切ない気持ちになる。
でもきっと大丈夫。
親父殿自慢の娘が見つけた相手なんだ、いい息子に決まってら。



みんな今頃何を考えているんだろう。